もりおか映画祭特別企画 大友啓史&達増県知事 緊急対談 いわての復興とその後トップ > 大友啓史&達増県知事 緊急対談

 

「もりおか映画祭2011」のゲストでもあり盛岡出身の映画監督・大友啓史氏と、岩手県知事・達増拓也氏が対談。
震災後の岩手の復興のプロセスと復興後の岩手が目指すべきものは何か、また映画が復興に果たす役割とは何か、語り合っていただきました。

大友監督:昨日それでですね、ウェルカムパーティーでたまたま会場だったレストランのコックさんが大船渡で被災された方で、家を無くして行き場を無くしている中で、そのお店の女性のご主人がその方をコックさんとして雇用され、彼が作ったローストビーフ等が振舞われ、いやあ、それがかなり美味しかったんですけれども(笑)。まあそれはさておき、三陸の被災者の方を盛岡の方々が一生懸命支えている様子を、早速昨晩直接目の当たりにしたんですね。今回の地震で、大規模な被害に遭った沿岸の状況を考えた時に、盛岡は基地じゃないですか、復興の要衝というか。例えば日本全体でもよく議論されたことですけれども、東北を復興させるためには、東京とか中央が元気じゃなければ復興もできないんじゃないかということも言われていますけど、今回、僕も自分が盛岡の人間なんで、盛岡はどういうところを役割として果たして行くんですかね。その時に。

達増知事:盛岡は結構大きな地震はあったんですが、あまり被害もなく、ここは被災者、被災地を応援する一大拠点として機能していくんだと思います。盛岡市さんの方でも様々沿岸に入って行って手伝ったり、あるいは宮古市になっている旧川井村に支援センターを盛岡市は設置して、そこから応援、ボランティアとかの基地にできるようにしたりとか、そういうことを既にやっていますけども、そういう支援の一大拠点という役割は盛岡にはあると思います。

大友監督:そうすると例えば今回、一大拠点になるべき盛岡で、なかなかこういう状況なんで立ち上げも含めて、もりおか映画祭は御苦労されたと思うんですよ。関係者の皆さんも当然何かを起こすには、色々なその実弾というのもいるわけですからね。その中で映画祭自体に期待されることというか、こういう映画館ストリートという商業の中心地に商店も地理的に密接していて、映画館自体と商業施設の活況が非常に密接な関係にあるストリートというのは、今日本全国ロケ地とかで行くんですけれどもほぼないんですよね。今回映画祭に一緒に来られた林海象さんという京都在住の映画監督は、「京都と似てますよ」と、盛岡という街は。ある種文化と生活というのがすぐ隣接にあるということだと思うんですね。そういう映画館通りという名の、僕なんか個人的にやはり映画祭単体で盛り上がるのではなくて、通り全体が盛り上がってお客さんや観光客を集客して、それで、被災地の状況も含めてこちらか何か発信していくというということが、この小さな映画館通りという通りから日本全国へ何かを発信していくという事を進めて行く上で必要だなと思うんですよ。その時に何かヒントになるお考えとかですね、映画ファンだけの集まり、オタクの集まりだけになっちゃうと意味がない気がしているんですね。実際問題。それをどうやって広げていくか。

達増知事:映画はパワーがあって良いと思うんですが、私、小さい頃は家族で映画館通りで映画を観るという習慣があって、毎月一回は必ず家族で映画を観に行っていたと思いますし、中高校生になったら今度は友達同士で映画を観ていました。その頃、『宇宙船ヤマト』の映画版や『スターウォーズ』とかちょうどそういう時代だったんで凄い興奮しながらみんなで映画館へ行っていた記憶があります。広がりがあると思うんですね、家族とのこういう生活、友達同士、学校の生活とか、そういう街の広い基盤の中で、映画館通りが大きな役割を果たしている、そういう繋がりも含めて盛り上げて行こうというのが、盛岡での映画祭というものの原点だと思うんですよ。そういう意味では、映画固有の狭い世界にどんどん入って行くというそれはそれで凄いことではあるんですけれども、やはり、街の家族とか学校、友達とかの広がりに繋がって行くような盛り上げ方を工夫するのがいいと思いますね。それが復興支援の観点からいくと生活の再建、生業の再生、安全の確保と三つあるんですが、そういうのに映画祭が繋がっていくというふうになるんじゃないでしょうか。

大友監督:昨日、何人かの方と話していて、被災体験というのを忘れてほしくないということを言う方が多くて。話はちょっと違うんですが、雑誌の企画で役者さんと対談というのを始めたんですね。一回目は蒼井優さん、二回目は青木宗高君と言う『龍馬伝』で後藤象二郎の役を演じた役者なんですが、彼は龍馬伝が終わった後に日本を離れて、年が明けて半年間アメリカにいて日本の震災のニュースを聞いたそうなんですね。彼はもはやネット環境も含めて世界と日本というのは距離は遠いけれど、とても近い、そんなに遠くはないだろうと思って行ったらしいんですね。そして今回地震があって、そのニュースがニューヨークでも自分の周りを飛び回り、周りの皆も「青木、大丈夫か?お前のところは大丈夫か?」と声をかけてくれて、一挙に距離が縮まったそうなんです。ところがひと月、ふた月経ったら、結局どんどん忘れ去られていくプロセスを見るだけだった。世界と日本というのは思ったよりも近いと思って行ったけど、物凄く遠かった、実は凄く遠かったということを実感として言っていて、今回の件も含めてなんですけれども、忘れられない復興努力とかアピールとか何かの対策みたいなものがいると思うんですけれども、その辺についてはどういうふうに考えておられますか。

達増知事:色々メモリアル公園造るとか、そういうハードな面で記念碑のようなものを創ろうということがあります。それから慰霊祭、慰霊式典のようなものを毎年行事としてやっていくことも検討しております。それに加えて思うのは、今回の大震災というのは、情報量が圧倒的に膨大なんですね。それで発震直後に起きていたことも全貌を掴むのも県知事としても大変でありました。その後の復旧復興のプロセスも今この瞬間もそれぞれの市町村や地域の中で様々な努力、工夫が行われているんですけれども、そういった情報にアクセスする機会がないと関心も薄れて行くと思うので、ドキュメンタリー的にでもいいですし、様々な資料映像を流すというのでもいいですし何か繰り返しそういう映像、音響に接することができる場があるといいと思います。アメリカに二年間暮らしていた時に『ロッキーホラーショウ』という映画を毎週土曜日必ず上映する映画館というのが学生街に一つは全米あるわけですよね。ワシントンDCだとジョージタウンにそういう映画館があって、毎週土曜日、震災関係の映画を上映するとかですね、頻度が毎週というのは難しいと思うんですが、そういうことで映画が風化させないということに関われるのではないかと思います。

大友監督:昨日オフシアターのコンペティションの作品で地元の方が作った、短くて、僕は一応プロなので彼らの作品をアマチュアと言わないと僕の立場がなくなるので、一応アマチュア作品を観て演出とかその作っているスタイル的にはもの凄く甘くて稚拙なんですけれども前提にある体験の凄さがあるんで、ある種、方法論とか関係ないところがあるんですよ。とんでもない、もの凄い体験をされている方がベースにして作っているという強さ、誰も否定できない「真実の体験」ならではの強さがあって、プロの目からすると、そういうのをもっと上手く伝える方法を覚えればもっと面白いし、有効ですよね。ただ、それをプロの側から作るのではない強烈さや不器用さ、混乱も含めてさらけ出されている面白さが物凄くあって、ああいうものが、実は意外と届くんじゃないかなと思ったりすることもあるんですよね。何かプロであるこちらが、ハッとさせられるというか。僕も岩手県人なんで元々は口も立たないし、アピールが下手なんだけど、物凄く意図をしっかりもって相手に意志を伝えていかなければならないということで、多分長年にわたって意識的に訓練してきたと思うんですよ。その時になんかこう彼らのアピールを高めていく、アピール力を高めていく場とか、アピール力を高めていく演出というのをしてあげたいと思ったりもするんですけれども その辺でもなにかね、お考えになっていることとかありますか。

達増知事:今思いついたのは、非常に特殊な例なんですが、『ゆきゆきて神軍』というドキュメンタリー映画があるじゃないですか。あれは当事者だからできる、一人でも撮影から出演から全て一人でやって凄まじいドキュメンタリー映画、あれは戦争ということで、だから四、五十年前の事をあれだけ生々しくドキュメンタリーでやれたってことは、今回の大震災を直接体験したような人達であれば、ある程度時間をかけて映像表現技術を身に付ければ、振り返りながら物凄いドキュメンタリーを作ることができるなと思いますね。

大友監督:吉村明さんとかの小説でもあるじゃないですか。で、今回『ヒアアフター』というクリント・イーストウッドが作った津波でのみ込まれた方の臨死体験、ある種どう立ち直っていくかっていう魂の救済のプロセスを描いたクリント・イーストウッドの映画がありまして、それを推薦作品として今回上映させていただくことに地元の方と協議してなったんですけど、この辺りも僕も県人ではあるけれども、震災体験を同時にしている人間ではないので、このタイミングで皆さんに観て頂くというのはどういう結果を及ぼすのかという事に対して、意外とビクビクしながらやっている部分もあるんですね。変な意味ではないんですが、つまりこちら側から体験者が発信するというのは、物凄く強いですよね。我々は今何を受け入れられるのか、どういうことなら目を向けて見られるか、僕らがプレゼンして『ヒア・アフター』を観て頂くスタンスではなくて、地元の方の方から形としてはですね今こそ『ヒア・アフター』を観たいと言われると、彼らはもう一度何かをね、このプロセスを映画に重ね合わせて自分達の何かを観たいということなんだなということが理解できて、ちょっと混乱していますけども、何か地元の方々の側から発信していく力というのがやはり凄く大事だなと思っています。

達増知事:どんどんそういう感じた事とか、被災地の方から発信していくといいんでしょうね。今お話を聞いていて思いだしたのは、大河ドラマで今『江』ってやっていますが、あれのオープニングというのは、湖の中を扇とか布のかが舞っているところから始まって、あれは見ようによっては津波直後の状況みたいで、しんみりした気分にもなるんですよね、ただ物凄く綺麗で音楽も良いから癒し的な効果もあって、制作した人達はもちろん津波のこととか意識して作っていなくても受け止め方によって何か感じるものがあるというのは、現地の人が言わないと分からないものだから、そういうことを現地の方からどんどん発信していって、こういうのをみんなで見るといんじゃないか、聞くといんじゃないかというのは発信した方がいんでしょうね。


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